教師も生徒も人間であるがゆえに誤りを犯すときがあります。生徒が道を誤ってしまったとき、その都度、最善の生徒指導に努めるのが教師ですが、正直正解というものはないでしょう。
そもそも本人が、「やってしまいました」と認めるのが当たり前かと思うと、そうでもないのです。「現行犯」であっても「ブツ」を押さえない限り、「なかったこと」にされてしまう摩訶不思議な学校も中にはあるのです!
指導に入る3つのパターン
例えば生徒の「喫煙」に関する生徒指導の場合、「喫煙」、もしくは「喫煙同席」、「タバコ、ライター所持」かによって、指導の軽重が分かれますが、普通は以下のような場合に実際に指導に入ることになります。
①喫煙現場を押さえた場合
②本人の申し出(ほとんどないですよね)
③事情聴取により、本人が認めた場合
②③の場合、いずれも本人が認めているのだから、すんなりと指導に入ることになりますが、問題は①のパターンなのです。現場を押さえられているのであるから、何ら問題はないと思うかもしれなませんが、事はそう簡単にいかないのです。
教師が喫煙している現場に出くわしたしたときには、まず「タバコ」を押さえ、本人から事情聴取をすることになります。私は経験したことはありませんが、タバコを押さえているにもかかわらず本人がしらばっくれ、「自分のものではない。わざわざ教師がタバコを用意して、自分をハメようとしている!」などと逆に教師を陥れようとするとんでもない生徒もいるとききます。
私が経験した最も悔しく、そして情けない案件は、実は上の事例に似ています。これまで、幾多の生徒指導事例にあたってきましたが、こちらが心を開いて誠心誠意指導すれば、生徒も分かってくれると信じていましたし、裏切られることはほぼありませんでした。しかし、長い教師人生いろんなことがありますね。
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「ブツ」を流しちゃいました!
私が勤務した学校は「教育困難校」が多かったため、遅刻、早退、欠席、長欠は言うに及ばず、授業の「中ヌケ」も多かったのです。そのため、生徒指導部員を中心に学校周辺の見回りを毎日行っていました。
いつもの見回りのある日のこと、民家周辺の空き地で女子生徒3名がたむろして、喫煙していました。人目もはばからず堂々としたものです。
生徒は「マズい!」って思ったのか生徒同士で目配せをしていたのが今でも記憶に残っています。「どれ、学校にいくぞ!」といつもの通り、タバコ、ライターを押さえようとしたその瞬間、「トイレ、トイレ!」と叫びながら、何と民家に向けて猛ダッシュをかけ、チャイムを鳴らしたかと思ったら、いつ許可を取ったのか、あっという間に家の中へとすべりこんでいくではありませんか。
唖然としながらも、住民の方へお詫びやらを繰り返しているうちに生徒が出てきました。「あ~スッキリした!ありがとうございました!」と何事もなかったように挨拶をする生徒たち・・・問題はここからでした。
「どれ、指導部にいくぞ!」返ってきた答えは、「えぇ~なんでぇ、授業行く!」とまるで何事もなかったように無邪気に答えるのです。結局、強引に指導部に連れては行ったものの、「ハメられた。吸ったというなら、証拠みせてよ!」の一点張り!
まさしく私がハメられた!のです。「ブツ」は民家のトイレに流してしまい、「臭い」は香水、ガム等で強引にとったつもりらしい。それでもかすかにタバコ臭がするのです。
生徒指導部会!担任さえも認めさせることできず!
不覚でした。「ブツ」を押さえる前に持ち逃げされ、そして流されてしまったのです。部会では、「証拠」がなくても、そして本人が認めていない場合であっても生徒を指導に入れることができるかどうか?で喧々諤々でした。
私は当時若く、「自分でボケているという自覚症状はないと思いますが、みなさんどう思われますか?」と~つまり、教師の言っていることと、生徒の言っていることどちらを採りますか?と投げかけたつもりだったのです。自分のクラスの生徒でもなく、授業でも教えていない生徒ではありましたが、実に情けなかったです。
多数が指導に入れるという方向に傾きかけたのですが、今度は逆に、「生徒が認めていないのに、教師の言い分をすべて飲むということになると、生徒を陥れようとする教師が出てくることになる」という、教師不信説とでもいうべき意見がでてきたのです。当然と言えば当たりまえですが。
それから3日間、生徒を授業に出さず、生徒指導部員の教師集団、担任を中心に事情聴取にあたりましたが、結局彼女らの口が真実を語ることはありませんでした。事実上、無罪放免です。
生徒指導の役割、それは何か?
それは、ズバリ、自らを省みらせること。これに尽きるでしょう。生徒もルールがあって、自分がそれに反していることは頭では分かっているのです。それでもルールを破るのは、自身が納得していないからなのです。
喫煙行為に関しては、みな一様に「誰に迷惑をかけているわけではない!」といいます。しかし、そんなことはないのです!まず、学校の評価を貶め、学校にかかわるすべての人に迷惑をかけているのです。自分がやっていることを省みることができない生徒を、学校に振り向かせるための指導が「生徒指導」なのではないでしょうか?
この案件で残念でならないのは、最後の砦である担任が生徒に事実を認めさせることができなかったことです。
生徒にとって担任はその他の教師と違って、特別な存在です。一番頼りになり、こころを開きやすい存在でもあります。その担任を責めても仕方のないことですが、それだけの存在であったのでしょう。寂しい限りです。教師の力量というものを改めて考えさせられた件でした。
警察の学校介入の是非
タバコ問題など、警察がからむことはまずありませんが、昔から「学校」と「警察」とは無縁ではなく、「学警連」などのように、情報の共有等、連携が図られてきました。生徒指導で踏みとどまることができない、凶悪な「犯罪」に該当する生徒指導案件が多くみられる今、警察の学校介入が議論に上がっていますね。
昨日(2019年12月11日)こんなニュースが報じられました。
名古屋市の男子中学生が、女性教師をカバンで殴りケガをさせたとして逮捕されました。
逮捕されたのは名古屋市中村区の中学2年の男子生徒(14)で11日、校内のトイレで担任の女性教師(37)に対して、カバンで頭を殴ったり水筒を投げつけたりするなどしてケガを負わせた傷害の疑いが持たれています。
女性教師は頸椎を捻挫したほか、腹や手足を打撲するケガをしました。
警察によりますと、男子生徒はトイレの鍵を壊したことを女性教師に注意されたため、その場で犯行に及んだということで、女性教師は12日被害届を提出していました。
調べに対し、男子生徒は容疑を認め「暴力は振るったが、水筒を投げてはいない」と話していて、警察は当時の状況を詳しく調べています。(東海テレビ)
あなたはこのニュースを聞いてどう思われますか?
11日にケガをさせられ→生徒指導部、管理職報告→緊急生徒指導部会→臨時職員会議→全体の総意のもと学校長が断を下した→12日、被害届提出~
あくまで私の推測ですが、ほぼこの流れでしょう。
普通、学校は自校での「不祥事」を隠したがるものです。上にも下にも覚えが悪くなるからです。特に管理職は・・・
ヒラの教員であっても教員はプライドの塊のような人種ですので、自己の指導力のなさをぶちまけてしまうのは勇気がいることでしょう。教職員おのおのの教育活動の中での、表には出てこない生徒指導案件というものはたくさんたくさんあるはずなのです。
教師の同僚性をここで論じるつもりはありませんが、こういった保守的且つプライド高き人の集団である学校が、「警察に届けるべき」と断じたからには、相当の理由があったのでしょう。また、これまでの自分たちの指導に限界を感じたであろうことは容易に想像がつきます。
「教育の放棄に等しい」などと言う人の気持ちも分かりますが、学校での殺人が行われる今、社会のルールに則り、学校内ルールではなく、一般社会ルール適用もやむなしなのではないでしょうか。社会で許されない事は学校でも当然、許されない事であるということを、諭しても分からないこどもに身を持って教えるのもまた、学校の役割ではないでしょうか。
「いじめ」などというねむたく安直なことばでもはや誤魔化すことのできない生徒の「犯罪」には、何よりのブレーキになることでしょう。
いくらこちらがこころを開いて彼らにぶつかっていっても、その思いがいつも彼らのハートに響くとは限らないものだと思うのです。
待つことも教育の大切な部分ではありますが、時には彼らが改心するまで待つよりも、ダメージを受け続けているこどもの救済策が優先されるべき~という時もあるのです。
それにしても、自分のクラスの子どもを警察に突き出し逮捕させてしまった担任、そして突き出された中学生と保護者の気持ちを思うとき、何ともやりきれない気持ちになるのです。決して敵同士などではないはずなのに、お互いが深い傷を負ってしまった今回の案件・・・
決して一人の子どもだけにかかりきりになることは許されない学校ならではの、バランス重視の決断と私は思いたいです。
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そして、結論!
生徒を信じるのが、生徒指導!
生徒に教師、学校を信じさせるのも生徒指導!
実はそれまでの長い道のり、積み重ねこそが生徒指導!
生徒に自省させる前に、自らを省みる!