コラム

四つんばい駅伝女子ランナー~駅伝経験者にしかわからないプレッシャー~何が彼女をそうさせたか?~

なぜ?彼女は両手両ひざをついて、ひざが血だらけになりながらも残り250mを前へ!前へ!~と這いつくばって進んで行ったのか?! 本当の気持ちは当の岩谷産業・飯田選手しか知り得ない。

にもかかわらず、駅伝はおろか10kmレースも完走したことのない人たちまでもが「感動した!!」「涙が止まらない!!」などと連発し、メディアまでもが美談仕立てにしてしまっている。果たしてそんなに騒ぎたてることなのであろうか?

駅伝には、駅伝走者しか知り得ないよろこびと悲しみがある。残り250m、すねを骨折し膝傷だらけになりながらも前へ進む・・私は駅伝経験者であるが、少なくとも私にはこんなことはできない。監督の判断があろうがなかろうが棄権を申し出る。誰にでもできることではない。

そんな彼女の気持ちをよそに、情報のうわべだけ捉え、すごい!だとかダメだ!とか無責任に意見を述べるのはなんか、なんかね・・という感じ。








駅伝には経験者しか分からない独特のプレッシャーが確か存在する。これは、趣味でゆるりくらりと流しているマラソン愛好家には決して分からないとてつもない重圧である。マラソンは変調をきたしたりイヤになったら、即、コースアウトできる「自己完結」型の個人競技であるのに対し、駅伝はとっても軽いのにその実、非常に重たいタスキという布を繋いでいく団体競技なのである。決して自己完結などし得ないスポーツなのである。一度でもタスキをつないだ経験がある人であったなら、あの四つん這い前進はランナーの本能みたいなものであることが理解できると思う。

一人の人間が障害ものともせず、耐え抜きやり尽くす姿は美しい・・・とは思う。個人的に美しい!とかスゴい!!やめてほしい!~などと自分のなかで思うのはもちろん自由&勝手である。しかし、今回の一件に限らず、事実を直視しないで無責任に本人を批判したり、美談仕立てにしてしまう昨今の風潮には「?」をつけたい。

事の表面だけを切り取って、すべてを理解したかのように思ってしまうのは私はとても危険だと思う。

今回の一件のウラでは、さまざまな問題があったことが見逃せない。あまりオモテに出てこない事実を見ていく前にもう一度、報道されている内容を確認してみたい。

福岡県で行われた全日本実業団対抗女子駅伝の予選会。岩谷産業の2区・飯田が第2中継所200メートルほど手前から、はいつくばった状態で進み右足は血まみれ。3区の今田に何とかたすきを渡した。岩谷産業の広瀬永和監督は2度にわたって棄権を申し出たが、現場での連絡がうまくいかず時間がかかったという経緯もある。主催者側によると、レース後に右脛骨(けいこつ)の骨折で全治3~4カ月と診断された。(出典 スポニチアネックス)

彼女のほふく前進でつながったタスキを3区の今田は涙ながらに肩にかけ、その後の全員レースで最下位から21位まで順位を押し上げた~という内容・・・ここまでがオモテに出てきているみなさんも周知の事実である。

飯田選手が転倒アクシデント後の残り250mを、這って第三走者にタスキをつないだ判断が正しかったかどうかは疑問が残るが(気持ちは痛いほどわかるような気もするが、その後の彼女の選手生命はおろか、生涯に渡って障害が残るような大きな事故といえるだろう。)これはさておき、ほとんどの人が見逃している事実に以下の2点が挙げられる。

①飯田選手は1区のタスキを数秒遅れて受け取っている

これは経験者からしたら、絶対にあってはいけない行為であり、あり得ない重大かつ甚大なミス。準備、意識面も含めて極めて初歩的な過ちと言える。その差を一秒でも縮めよう~と力走するものからしたら、この数秒は致命的である。彼女は高校時代にスター走者でもなく、このような大舞台を前にして緊張してしまったのかもしれないが、この「第一のアクシデント」がさらにさらに彼女を追い詰めていったに違いない。

②彼女が実業団(走るプロ=職業ランナー)の選手であるという事実



これはみなさんアタマでは理解していると思うのだが、普通に会社で仕事をしながら、勤務時間以外に練習をしているわけなんかではまったくないということなのである。つまり、岩谷産業という有名な会社に所属し給与を受け取ってはいるが、走ることがメインの仕事である、いわば「走りのプロ=走ることによりお金をもらっている」なのである。言い換えれば、会社の広告塔、宣伝マン。会社のサークル的なノリ、趣味の領域なんかでは決してない。

「仕事」として走っている以上、がんばるのは当たり前、駅伝走者の「死んでもタスキだけはつなぐ!!」という本能にさらに更に火がついたことは想像に難くない。

こういった彼女のアクシデント・現実があったにせよ、私個人的な見解としては、大会運営の判断でレースをストップさせるべきだったと思っている。監督からの棄権申し出を待つまでもなく、危険と判断したなら大会運営の判断でストップをかけられるよう規約改正すべきである。

残り250mでこの負傷状態である。残りが彼女の持ち区間3,600mぜんぶだったらいったいぜんたいどうのような判断をしたのだろうか?と考えると怖すぎる。おそらく彼女自身は残りが1mだろうが3.6kmだろうがどんなことをしても3区につないだであろう。おそらく飯田選手は死んででもタスキをつないだであろう。とてつもない気迫をあの様子から感じることができた。

監督の棄権意思が2度までも運営に伝わらなかった問題はここではおいておいて、選手生命を守るためにも、主催者の判断でレースにストップをかけられる権限をどのようなレースであっても運営側にも与えるべきである。いわばボクシングでいうレフリーストップと同じように考えればいいだけの話ではないだろうか?

駅伝は普通、タスキが止まった瞬間、その時点でレースは終了してしまう。ここに一番の問題があるような気がしてならない。(というか、ここに駅伝の魅力が詰まっているのも事実であるが・・・)なんとか、たとえば、歩みがストップしたら次の走者が残りの区間プラス自分の区間を走り切れば、つながったことと見なす~などのようにできないものかと私は思う。

繰り返しになるが駅伝は個人競技でもあり団体競技である。昨今はショー、見世物のようになってはいるが、技、健脚を競う戦い、いわば集団バトルなのである。タスキをつなぐチームみんなの思い、つながりが強ければ強いほど、そうカンタンにレースからは降りられない。

タスキをつないでいくから、とてつもないプレッシャーがあるからこそ、あそこまで自分を追い詰めることができ、本来以上のパワーが引き出せることも認める。しかし、レースにより障害を負い将来をダメにしてまで、そこまでしてやるべきのものであろうか?

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テレビ中継もされている、みんなに注目されている、会社・チームみんなの思いを背負って走っている・・・こういった重圧・責任感が飯田選手に限らずランナーにやめたいのにやめることができない雰囲気をつくりだし、危険へとつながっていく・・・負の連鎖である。

タスキをつなぐことは尊いことではある、しかし、命を脅かしてまでするものではない。潔い撤退、負けるが勝ち・・・こう自分たちを納得させ、次へ望みをかけ、悔しさをバネにしていくチームがもっともっと出てきてもいいように思うのである。

彼女があそこで棄権することなしに、タスキをつないだ・つなげたという事実は彼女のこれからの長い人生において重要な意味を持つものだと私は思う。関係者でもない私たちがあれこれ言えるものではないような気がする。

最後に個人的な思いになるが、これに懲りることなく、これからも彼女にはランナーであってほしい。追い詰められて走るよろこび、みんなのために走る快~というのもレースの醍醐味であるが、走る~という営みは本来自分のためのものであって、自分の密かな楽しみのために走っているランナーがほとんどなのであるから・・・

飯田選手、いまはゆっくり休んで治療に専念してください。おつかれさまでした。


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