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校則はなぜ、バイク免許取得を許さないのか?~バイク好きな生徒への指導はどうあるべきか?~





教え子にバイクが好きでたまらない少年がいました。留年生、無口、学業スポーツ何でもOK!おまけにやさしくカッコいい!留年の理由は出席日数不足のため、しかもそのまた出席日数不足の理由は度重なるバイク乗車、および同乗によるもの・・・

同じ年齢の子どもたちのなかでただ一人、一歳だけお兄さんの彼は、男の自分から見てもカッコよく、女子生徒の憧れの的となるのにそう多くの時間を必要とはしませんでした。

しかし、同じ指導を繰り返してきたため、今度指導になったら後がない・・・という状況に追い込まれて私のクラスに入ってきたのです。女子生徒はみな「~くん付け」ですが、さすがに男子生徒は一目置いてみな「~さん付け」です。

結果的に彼のバイクに対する情熱は冷めることなく、学校を去っていったのでした。この時期のこどもがバイクに憧れる気持ちも分かります。私もそうだったから。でも私はズルく冷めていたのかもしれません。彼ほどバイクを愛してなかったのだと思います。

退学してまで乗りたい自動二輪・・・一方、学校は「校則」という学校の規律、決まり、法律?で生徒を縛ります。またまた繰り返しになってしまいますが、学校は生徒と敵対関係にあるのでしょうか?当時の学校がバイク免許取得、運転、同乗を禁じていたのは、それなりの訳があったのです。

今回は、現在の全国的なバイクに関する指導の潮流を見ていくとともに、これからのバイク指導の在り方はどうあるべきか、私の苦~い経験から一緒に考えていきましょう。

ノーヘルは自己責任で済む問題か?

彼がヘルメットを被らないでバイクを乗っている姿を度々目撃されるようになり、指導部でも目撃情報だけで指導に上げることができるのかが、度々議論されました。本人が認めていないのに既成事実を作り上げてしまうことへの怖さから、指導に上げられることなく彼のバイク運転は続きます。

隠れてのバイク運転は普通以上に危険が伴います。担任として当然、家庭に直談判を試みましたが、家庭は完全放棄状態です。「家庭内別居状態で諦めてるから、学校で好きなようにしてくれ~」と言い出す始末です。

本人と何べんも話し合ううちに、無口なのですが非常に人間臭いところがあり、徐々に彼に惹かれていくようになりました。昔、私もバイク好きだったこともあり、バイク・クルマの話で盛り上がること度々でしたが、私は自分の立場をわきまえ彼に問いかけていったのでした。

なぜ、ノーヘルなのか?

「事故った時コワいから、絶対人は乗せない。ノーヘルで死んだとしても自己責任で誰も困らない」

「事故で相手があった場合、ヘルメットを被っていれば助かった命なのに、相手は人を殺したことになってしまうのではないか?」

「事故で歩行者とか自転車を巻き込んでしまった場合、どう責任を取るのだ?」

「保険には入ってるし」

「お金の面はともかく、命、後遺症、心の傷等はお金をもらっても癒えるものではないだろう?」

「誰も困らないなんて言わせない、少なくとも私は悲しむ」

なぜ、指導部の事情聴取で、バイク運転の事実を認めないのか?

「信頼のおける人にしか本当のことは言いたくない。どうせみんな乗っていると思ってるんだ」

「最初、濡れ衣を着せられたからもうどうだっていい!」(最初のころ、本当は乗っていなかったのに目撃情報だけで乗っているだろう?とつるし上げられ、どうせ疑われてるなら本当に乗ってやろう!ということになったとのこと)

指導部全体では、担任の前では認めているのだから、もういい加減指導に上げたらどうか?という意見が多数を占めるようになります。他の生徒との整合性、そして何より命に係わることから一刻も早く止めさせなくては~と彼、そして私への風当たりが強くなるに至って、彼がとうとう運転、他への同乗を認めたのです。

続けて、「学校は一応続けたいけど、バイク運転をやめるつもりはないので退学にでもなんでもしてくれ~」ときたのでした。

目撃情報だけではなく、実際運転している現場、乗り降りするところをとらえようと、私を含め多数の指導部員が昼夜の張り込みを続けても一向につかまらなかった彼が、あっけなく指導部でも運転を自ら認め、学校から自らの退場を告げた一瞬でした。

人の命がかかっていることについて、自分で「学校の指導には従えない」~と宣言しているものを学校として残すわけにはいきません。何とか彼に翻すように説得を試みましたが、彼の決意は変わることはありませんでした。

大分、前置きが長くなりました。バイク、クルマに関する指導を何ら行わず、違反事項があった時だけ懲罰指導を加える学校の指導体制に疑問を持ったのもこの時期でした。無断免許取得、運転、同乗に限って言えば、こういった違反を犯した生徒に対する十分な交通安全教育もまったくできていない状況でした。

やはり、校則でバイク免許取得、運転、同乗を禁じているのであれば、その理由、学校の思いをきちんと彼らに説いていかなければならないと思うのです。普段からの交通安全教育が当時は何もなされていない状態だったのです。

バイク、クルマに興味を持ち始める彼らの衝動、情熱を閉じ込め、卒業まぎわになって、自動車運転免許許可に係わる指導だけを取ってつけたように施すのは本来の高等学校教育の在り方なのでしょうか?遅かれ早かれ交通社会に運転者として入っていく彼らに早いうちからの交通安全教育を施し、交通安全意識を持たせるのも学校の役割のひとつのような気がするのですが、みなさんはどう思われますか?

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現在バイク通学、免許取得を認めている学校は約半分!

全国的な潮流としては、バイク免許取得、通学を認めた上で安全教育を行っている学校が半分です。裏を返せば半分の高校がいまだ校則でバイクを一切認めていないのです。1991年に「三ない運動」は違憲であるという民事判決が出ています。「三ない運動」というのはご存知のように、①免許取らせない ②バイク買わせない(買い与えない) ③運転させない~という運動が全国的に展開されたものを指します。

しかし、この運動をただ単に維持していくのではなく、社会環境、潮流にあわせたカタチに変化・進化させていかねばならないとの考えから、現在では全国で半数の学校がバイクの運転、場合によっては通学を認めている現状です。交通の利便性がとてつもなく悪い地域などは昔からバイク運転、通学を許可制としたうえで、安全教育に力を入れてきたのですから当たり前の流れと言えばそうなのかもしれません。

有名なところでは、熊本県立矢部高等学校がありますね。長年バイク通学を場合によっては許可し、学内で原付免許が交付され、バイクの部活「二輪車競技部」までがあることでも知られる有名な高校です。

許可制のバイク通学の実際の流れ

私の初任地はいわゆる僻地(へきち)で、高校とは言え1学年3クラス計9クラスのこぢんまりとしたのどかな学校でした。市街地に出るまでバスで40分近くかかる上、バスの運行状況がきわめて悪く、日に数本です。それも最終便は4時近くと部活が始まったと思ったらもう帰り支度をしなくてはいけないような感じなのでした。

こういった交通事情でしたから、この学校では早くからバイク運転免許取得、運転を許可制とし、安全教育・指導にもかなりの力を入れていました。2校目以降の勤務校はすべて校則でバイクを一切認めていませんでしたので、かなり勉強になりました。以下がバイク通学が現実となるまでの流れです。(通学に必要な生徒のみ、免許取得を精査の上、「許可」としていました)

①バイク運転免許取得希望者説明会、出席

②担任との面談

③運転免許取得申請書の提出(親の署名捺印)+担任が確認の連絡を入れる

④審査(学業、素行、生活態度、通学距離、必要度、緊急度などなど)

⑤免許取得

⑥誓約書の提出(学業の低下、指導を受けた、交通違反などがあれば許可を取り消すことができる旨が記載されています)

⑦バイク通学指導集会への出席(必ず父兄同伴で)そのあと、父兄同伴で担任との面談

⑧バイク通学開始

交通違反の生徒に対する指導

一方、交通違反を犯した、交通事故の加害者・被害者になってしまった生徒に対する指導にもきめ細やかな配慮がなされていました。こういった生徒に対しては彼ら専用の指導会が全体、個別にそれぞれもたれ、その上、学校としての特別指導が加わります。当然、違反事項の軽重、頻度により許可の取り消しもあり得る内容です。

また、違反があれば面倒でたいへんなことになるため、生徒の多くは違反の事実を隠し勝ちです。そのため、定期的に「運転記録証明書」の提出を義務付けたり、学警連との連絡を密にしてさまざまな情報を得たりもしていたのです。すべては生徒の命、他の命にかかわることですので、他の指導以上に学校は慎重に且つ神経を尖らせていました。

こういった指導体制が敷かれているので、生徒もすべてにおいて慎重にならざるを得ません。いかんせんバイク運転を禁じられたら、彼らにとってはほんとうに死活問題なのですから。指導部として私も、運転生徒に対する追跡調査データを集めましたが、問題を起こす生徒はまれで、あらゆる面で優秀な生徒集団にいつの間にかなっていたのでした。

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学校で、早いうちに交通社会に出していく意義

これらの一連の指導の経験から、学校で交通安全教育を早いうちに行っていけば、生徒の交通安全意識は高まっていくということが分かりました。面倒くさいものに、一方的にフタをしてしまうのではなく、彼らに交通安全真剣に向き合わせ、早いうちに交通社会に送り出していくのもこれからの学校の務めであり、姿なのではないでしょうか?

こういった生徒の意識を高めていく指導は確かに多くの時間と労力、そして何よりも神経をすり減らすたいへんなものです。しかし、社会に出ていった後、さまざまな機械(クルマ、バイク、自転車など)を運転することになる生徒への早いうちの意識付けになることは間違いありません。

バイク運転に対する規制指導を見なおす必要がまったくない~としている約半数の高校は、時代の趨勢にもっと目を向けるべきです。こういった意識は一過性のモノではなく持続性のあるものだと思われます。彼らが親になり、その子供に安全教育について語る~学校が始めた指導が連綿と連なっていくなんてすごいことだと思うのです。

バイク免許取得を校則で縛ることは違法か?

校則で禁じられているけれど、バイクに興味がある生徒は決まってこういいます。「法律で16歳から自動二輪免許取得を許されているのに、学校が禁じるのはおかしい!」憲法上許されていて広く認められている人格権の侵害~ということを生徒は言っているようです。

それでは、学校の言い分を聞いてみましょう。私の勤務校でバイク禁止としていた学校の主張はおおむねこんな感じです。「バイクを運転する必要性と危険性をてんびんにかけた時、必ずしも必要性が高いとは言えないのではないか?学生はほかにもっとやるべきことがあるはずだ。」

学校と生徒の真っ向から対立するそれぞれの主張・・・法律的には、免許取得を禁じる校則はたしかに認められないものになってはいます。しかしです。学校内のみで通るきまりごと、つまり「校則」は多くの生徒が生活する場での規律という役目を果たすと同時に、生徒、他の命を守るという至極まっとうな理由から来ているものであり、何も生徒をいためつけるためにつくられた規則ではないのです。

以上のような当たり前の理由から、校則でバイクにかかわるすべてのことを禁じることができるのは違法ではないとされているのです。

この考えを盾に、これからもずっと校則で生徒を縛り続けていく学校があったとしたら、それは考えものでしょう。みずからの仕事を増やしたくないがために、生徒のいのちにかこつけて指導を放棄しているようにしかみえないのですから。

先に話したどうしても学校の指導に従わなかった生徒も、学校そして私の大人のウソを見透かしていたのだと思うのです。なぜバイクはいけないのか?なぜ校則でバイクを禁ずるのか?これらの命題についてキチンとたした答えを出せていなかったのです。そして、心から彼のことを思っての指導でなかったとも思うのです。そこを賢い彼は分かっていたのです。

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バイクにまたがるということ・・・

バイクに乗ったことのある人ならわかるでしょう。クルマ運転時とはまったく異なるあの爽快感とゾクゾク感・・・そして危険と隣り合わせのヒヤヒヤ感。事故にあってしまった場合、即大けが、もしくは命を落とすことになりかねません。自損ならまだしも、他の命、モノを奪うことにもなりかねない非常に危険な機械を運転しているのです。

自分の命だけではなく、他の命も危険に晒しながら運転している・・・こういった危機意識、緊張感を持続させながら運転していくということは、何もバイクだけではなくクルマであってもとても大切なことです。機械の持つたのしさだけに目は行きがちですが、負の部分にも、もっと意識して目を向け続ける必要があると思うのです。

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クルマはオープンカーのオープン時を除いて、強いカタマリに守られていますがバイクは頭以外すべてむき出しです。事故った時、どうなるか想像できるでしょうか?前に「自殺を考えているあなたへ!知っておくべきこと・・・」で、私がバイク事故シーンにまともに遭遇したことは話しましたが、本当に人間「肉の塊&血」で出来上がっています。事故ればタダでは済みません。本当に「起こしてしまってすみません」ですみません~なのです。

価値基準というものは、ヒトそれぞれです。こういった危険と引き換えに得られるものが、それだけ本当に価値のあるものなのかどうかについて、早いうちから考えていくこともとても価値のあることでしょう。

私自身も教え子をバイクとクルマで亡くしました。これからの若ものが尊いその命を機械のために無くしてしまった・・・これほどツライことはありません。彼らが生き返ってきたとして果たしてもう一度バイクにまたがり、ハンドルを握るでしょうか?

こういった「命」にかかわる、人間としても大切なことをもっともっと家庭で、学校でこれからは考えていくべきではないでしょうか?









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