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学校での盗癖、万引き依存生徒の指導~その難しさと原因・動機追及の大切さ~

「なんでこんなものを?!」

「どうして、また?!」

繰り返される子どもの窃盗について児童生徒と向き合い、指導していくにあたっては、専門的・高度な知識と豊富な経験が必要とされます。学校、教師だけでこの問題を背負いこむには荷が重すぎるくらい重たい問題なのです。

なぜなら、病的な精神障害の一種であるクレプトマニア(窃盗症)なのか、それともいわゆる「盗癖」なのか、その見極めさえ教員なり立ての人には難しいことでしょう。まず、「盗む」という行為自体が、彼らにとっては信じがたいあり得ない行為に映るようです。

今回は生徒指導のなかでも特に難しいとされる繰り返される、彼らの「盗む行為=窃盗」(盗癖とは教育現場では避けられる、もしくはその使用には慎重さが求められる用語ですね。)について、実際どのように向き合っていったらいいか、私のこれまでの経験からいっしょに考えていきたいと思います。



初犯か再犯か?
の見極めが何より大事!

まずは、「万引き」という言葉についてですが、みなさん、先生方はどのような印象がありますか? 大幅に値引いてもらって、タダにしてもらったような甘ったれた印象がありませんか?

当たり前すぎることの再確認ですが、いわゆる「万引き」は窃盗犯として刑法で裁かれるれっきとした犯罪です。犯してしまった罪に関しては、年齢により法律の扱いはもちろん異なりますが、やってしまったことは省みさせ、償わせなくてはなりません。でもここで気を付けなければならないことがあるのです。

今回犯してしまった窃盗がはじめてなのか、それともそうでないのか? 実はこのことなのです。

ここでつまづくと、そこから展開される指導が、まったく意味をなさないどころか、彼らの症状、精神状態をさらに悪化させてしまう恐れがあるからなのです。

初犯(あまり使いたくはない言葉ですが)である場合が分かったのであれば、家庭の協力を仰ぎつつ担任、生徒指導部を中心に全力を挙げて厳しく指導し、その後はあたたく寄り添い見守っていく指導が必要とされます。

未遂、成功体験のないうちに(初犯で補導等された場合)犯罪であること、人間として許されることでないことを厳しく指導することが何よりも大切なのは、成功した窃盗は繰り返される傾向にあり、くせになりがちだからなのです。

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万引き、窃盗行為に潜む
子どもたちのワケ、背景を探ることの大切さ

初犯の場合はほんの軽い気持ち、できごころでやってしまった~というパターンが多いでしょう。ただ単に盗んでしまったモノが欲しかった~という動機からくるものです。

しかし、いくら初犯であっても、単なるできごころではなく、その陰に重大な問題が隠されている場合があるのです。

ディスカウントストアで黒毛染スプレーを1本盗んでしまった女子生徒がありました。担任出張で不在であったため、当時指導副部長でしたので私が本人引き取りと謝罪のため、店を訪れました。その時、彼女から聞いた窃盗理由がこれです。

「学校の頭髪指導が意味がわかんなくて、盗んで学校を困らせてやろうと思った」

彼女の行為を見つけてくれた私服警備員の方の話では、実に堂々としたものでまさに「見つけてくれ!捕まえてくれ!」という感じだったというのです。彼女の家は裕福で経済的にひっ迫しているわけでは決してありません。

このケースからも分かるように、「盗む」という行為に対する原因の究明が必要になってくるのは、行為の陰にさまざまな問題が隠されているからなのです。

単純にそのモノが欲しい!わけではなく、

ストレス発散

スリルを味わいたい!

彼らなりの鎮静効果を得るため(情緒不安な子どもが窃盗に走るケースは多いです)

反抗、反発

破壊行動

単純な楽しみ(?)

いじめなどによる万引き強制

はじめてであっても、このようにさまざまな原因・動機・問題が隠されている場合が多いのです。単なる注意、叱責などの指導が何の意味をなさないだけでなく、害にさえなるということが分かるでしょう。

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盗む行為がやめられないこどもたち・・・

盗む行為が繰り返され、それが習慣となってしまった場合、いわゆる「盗癖」と位置づけられますが、そこまで至るにはそこには必ず彼らなりの動機・原因があります。

私が担任したのは「盗癖がある、治らない~」と中学校から申し送りのあった女子生徒でした。小学校の頃は、まわりの友だちの身の回りの物を盗む程度だったらしいのですが、大きくなるにつれ中学では金銭、職員室のノートPCなど大胆且つ経済的利益を求めるようになっていったとのことでした。

実際、彼女が入学してから休学するまでの半年の間、私のクラスはもちろんのこと、他クラスも言うに及ばず、さまざまなお店から呼び出されること数え切れず・・・の日々でした。彼女、家庭とはかなり時間をかけて話し合い、他の教師にも入ってもらって彼女のこころの闇に迫るべく対話、指導をかさねましたが、終いには

「私はそんなことやっていない」

「なぜ、私を疑うの?私が何をしたっていうの?」

「どうしても私がやったというのなら、私はもう一人いるから、その人がやったのよ、ゼッタイ!」

「その人に言ってちょうだい!」

~などと非常に脆く、危なっかしい精神障害の兆候が見て採れたので家庭に病院に行くように強く勧めたのです。初めは拒絶していた親御さんも娘に徘徊、奇声を上げるなどの症状が出始めたため、しぶしぶ了承。一つの精神科で診断がなかなか出ず、いくつか病院を回るうち、とうとう人格障害、それも重い分裂症~と診断されたのです。

お医者さんの見立てでは、当初は、本当にそのものが欲しくて窃盗を繰り返す「盗癖」であったのが、より深刻なクレプトマニア(窃盗症)になってしまったとのことでした。

盗癖であれば、担任を中心としたまわりの人間の声にも耳を貸す余裕、指導が入る余地はまだありますが、病気になってしまったのであれば、それは専門家の協力を仰ぐほか道は残されていないでしょう。

窃盗症は病気、専門的なケアが必要!

クレプトマニアは、「盗む」という行為自体が目的となるため、そのモノ自体、そしてその行為がどういう結果となるか~についてなどは本人はまったく無頓着になるそうです。

盗む行為そのものが持つ、刺激、快感?、達成感が与え続けられるとそれをさらにさらに繰り返していってしまう病的症状で、一種の精神障害、完全な病気なのです。

そのお医者さんからはそれ以上の詳しい診断がまったく出なかったことと、彼女の家庭がそれ以上の治療を拒んだため、暗礁に乗り上げたような感じで途方に暮れていた私でした。しかし、自分なりにいろいろ学習していったり、本人不在のまま相談~というカタチで児相、医療機関等から話を聞きこの病気についての理解を深めていきました。

そうしていくうち、彼女の病気の恐るべき原因が見えてきたのです。この病気は男性よりも女性の出現率が高く、男性の4倍近い値なのです。そして、女性ならではの性的虐待や葛藤が原因で発症することもある~と理解していたので、再び彼女の成育歴等を家庭から何とか聞き出すと、最近外泊が多く、家に寄り付かないことが判明。

そしてとうとう本人より、付き合っている社会人に性的暴力を振るわれていることがわかったのでした。

そしてそのころから過食と絶食を繰り返し、異様に太っていったかと思ったら激ヤセ~この繰り返しで摂食障害の極地といった感じでした。この摂食障害もクレプトマニアとの関連性が注目されている病気であり、まさに彼女の症状とピッタリ重なり合うのです。

その後、休学を経て退学してしまった彼女でしたが、長いリハビリ期間を経ていまは普通に暮らしています。あの時の私、学校としてできることには限界がありました。あの時、自分ひとりで抱え込んでいたら~と想像するとゾ~ッとするのです。

教師一人にできることなどたかが知れていると、当時は自分の非力さを恨みもしましたが、いまはそれも仕方なかったのではないかと思えるのです。




盗むという一つの行為の陰に、さまざまな問題が隠されているということを学んだ当時の私でした。そして、担任としてできることに限界があることもまた同時に学んだのです。

最後に、これらの事例のいずれにも当てはまらない窃盗があります。それは、先にも触れましたがいじめなどによる強要窃盗です。

私自身はこの窃盗強要、経験したことはありませんが、補導された場合などであっても、強要されたものであることは本人の口から聞くことはまず、難しいでしょう。そして何より怖いのは強要窃盗もまた繰り返し行われるということです。

いじめによる強要窃盗であることを見抜けずに、本人の意思で行っている窃盗と勘違いして指導を続けていくと、いじめで受けているダメージプラス、勘違い窃盗指導となり、本人のこころはズダズダになっていくこと必至です。

教師、担任であるならば、窃盗の原因・動機・背景が何であるのかの究明を、あらゆる面からとらえていくべきでしょう。

いずれにしても、生徒の万引き、窃盗指導に関しては、これでもか!という細心すぎる注意と慎重に慎重を重ねた継続的な指導が求められるのです。


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