教員であっても、制度上は年次有給休暇MAX取得はまったく問題ありません。労働者として、手厚く保護されています。しかし、ひとつだけハッキリ言えることがあります。
学校以外の仕事、職場よりも、確実になかなか取りづらいのです。もちろん、取得の時期や理由などにもよりますが、例えば平日授業日に休むとなると、誰かに必ずシワ寄せが行ってしまう代わりがむずかしい職場だからなのです。
今回はこれからの現場を担っていく先生方に向けて、年次有給休暇の大枠とその実情、そして取得にあたっての注意点を話していきます。教師であっても労働者に変わりはありません。
時には心身を病んでしまって「休み」が必要になる時だって来るかもしれません。教職員の権利として定められている年休についてちょっと知っておくことも無駄ではないかもしれません。
自分のクラスの入学式 VS 自分の息子の入学式、バッティング!~どっちを選ぶ?
どうして、こんなちょっと古い(2014年)NEWSを持ち出してきたかと言いますと、それなりの理由があるからなので、ちょっと付き合ってください。まずは、ニュースの概要を思い出してください。自分の息子の高校の入学式に出席するために、勤務先の高校の入学式(1年生正担任)を休暇届を出して欠席した~というものでした。
担任がいないことに気付いた新入生や保護者から心配、不安の声が上がったと聞きます。当然です。また、入学式の担任紹介の中で校長が女性教諭の欠席理由を説明したうえで、女性教諭は「入学式という大切な日に担任として皆さんに会うことができないことをおわびします~」という文章を事前に作成し、当日、別の教員が生徒らに配ったともいいます。
さて、何が問題なのでしょう?制度上はまったく問題ないのに、なぜこれほど議論を呼んだのでしょうか?きちんと事前に学校長に相談し、許可を得たうえでの欠席&出席です。「我がのこどもを優先させるのも止む無し~」と学校長もそう裁可したのでしょう。
これが、学校以外の職場であったなら、「おめでとう!」って祝ってもらえる入学式なのに・・・批判と擁護論が入り混じってたいへんでしたね。この問題を「良い」「悪い」だけで論ずることはできません。なぜなら、このケースは当該教員の内なる主人、人格、良心、矜持の問題になってくるからなのです。
「そこまで、自分の受け持ちになる子供に思い入れはない、自分のこどものほうが大事だ!」ととらえられても仕方ありません。つまり、教師で生きる~という自分の人生にそこまでの覚悟はなかったのでしょう。自分のこどもの入学式は確かに人生で一回きりです。でも、かえがけのない受け持ちの子供の入学式だって、その子供たち、父兄にしてみれば普通はたった一度なのです。
この担任教員にとっても、今回受け持つ子どもの入学式は「これきり」のはずなのですが・・・わが子の「これっきり」のパワーがより強力だったのですね。
彼女にとっては、教員人生の中で何度か経験する入学式のうちの一つくらいだったのかもしれません。もし、私がこのケースに出くわしたら、自分のクラスを取ると断言できます。彼女の高校生になる子供だって、そのくらいのことは理解できたはずなのです。「お母さんはそれだけ、自分の仕事に誇りを持ってやってるんだ~」と。もうそういう歳のはずです。
同じバッティングでも「授業参観 VS NHKのど自慢出場」というのも、なぜかこれも2014年にありましたが、これには正直笑えました。(失礼)のど自慢では、本番で必ず歌う前に本人の職業紹介があるというのに~いったいどうしちゃったんでしょうか?授業参観と言っても、自分の担任しているクラスの参観ですよ。
このクラスの父兄の心中お察しします。授業するのイヤになっちゃったんでしょうか?もちろん事前に伺いを立て、有給を取ったとのことですが、学校長の説明が苦しいです。
「本人は授業参観と重なったことを気にしながら年休を申し出た。あまり好ましくはないが、許可せず本人の教育への意欲をそぐより、許可した方が教育に身が入ると判断した」「生徒や保護者からの不満の声も届いていない」ですって。私が父兄だったら、正直言って、こんな教員に自分のこどもは受け持ってもらいたくはないです。
ちょっと言い方がキツくなりましたが、これからみなさんが奉職しようとする学校という職場は、休みひとつ取得するのに、ありとあらゆることを考えなければいけないところなのです。中には周りの迷惑を顧みず無神経な取得の仕方を繰り返す人もいますが、やがてそういう人は周りから頼られず相手にされない閑職に追いやられることでしょう。
ちなみに私が奉職しておりました十数年間は、正月三日、盆三日、そして本当にたまに日曜(年数度)程度しか、休みは取れませんでした。検定の多い特殊な教科であったのと、これまで経験した顧問はすべて運動部であったからなのでした。
権利として保障されているはずの休みなのに、おかしいじゃないか?と思われるかもしれませんが、これが実情です。簡単に言うと、「取る人はMAX(以上)取得」「取らない人はまったく取らない!」このどちらかがほとんどでした。
ちょびちょび取得の人はまれでした。これほど両極端の職場というのも珍しいでしょう。つまり、どちらもそれなりの「覚悟」を決めているのです。「やる」か「やらないか」の。
制度上、当然許されていることなので、だれも表立って批判などできやしません。
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年次有給休暇の超かんたんな説明
年休(年給)って何でしょう?私も在職中はほとんど取得したことがないうえ、いまは自営で年給とは無縁の生活ですので、詳しい話は別の方に譲るとして、押さえておいてほしい最低のラインについて説明します。
①年休と病気休暇、病気休職はまったくの別物
初任者研修時代の一年間は条件付き採用ですので、休職はできません。休職以外の休みは、前職によって多少前後しますが、もちろん取得できます。
②年次有給休暇は1日もしくは、1時間単位で取得可能
建て前では取得理由について細々と述べる必要はありません。しかし、職場により教頭よりその理由を詳しく聞かれることもあります。と言いますのも、学校の忙しい時期に休まれると学校運営上、支障をきたす場合は、その理由を尋ねることは認められているからなのです。
また、年休の届け出は事前が普通ですが、急な病気、突発的なアクシデントなどの場合、当然事前に出すことはできません。このような場合には、後日、届け出ることが可能です。
③年休は最大20日、翌年のみに繰り越すことが可能
翌々年まで最大ため込んで、60日などとはできないということです。公立ではこれまであり得ませんでしたが、一部の私立校では教員の働き方改革のため、未消化分の年休買い取り制度を始めているようです。賛否両論もちろんあるでしょうが、新しい取り組みとして評価できるでしょう。
④年次有給休暇とは別に「病気休暇」という制度
有給ですので100%支給です。精神疾患、隔離が必要な法定疾患の場合は最大180日、その他の病気の場合は最大90日。ちなみに6日まで、病気の理由で休む場合は、医療機関の診断書等は必要ありませんが、この日数を超えると、証明するものが必要となります。
⑤特別休暇
年休、病休とは別に特別休暇があります。忌引き、介護、結婚、生理、育休とか書ききれないくらいありますので、一度ご自分で調べてみてください。きっと、その数の多さにびっくりされることでしょう。)そうでした。年休とは別に貴重な「夏季休暇(6日、分散、まとめどり可)」もありました。
⑥職専免研修休暇
職務に専念する義務免除に関する特別休暇です。もちろん有給です。免許講習等がこれに当たります。こちらは教師にとって大切な研修に当たる部分ですのでちょっと詳しく話します。教員が研修を受けるのは、自主的なものから義務付けられているものまで多岐にわたるのですが、教育公務員特例法では権利というより「義務」として位置づけられています。「日々、研鑽に努めなさい!」ということなのです。
また、教員の研修は大きく以下の三つに分類できます。
A 職務研修 通常勤務と同等であると認められ、職務命令を 受けた研修。(職務)
B 職専免研修 職務に有益なものとして、職務専念義務を免除されて行う研修。(職専免特別休暇)
C 自主研修 自主的な研修で、研修会や講演会 への参加、あるいは自ら研修に励むこと。 (年休)
上記の職務研修や職専免研修を承認するかどうかは所属長の裁量権に帰することですから、なんでもかんでも一概にすべて認められるということではありません。
以上、非常にかんたんに話してきましたが、その種類、数の多さにびっくりされたかもしれません。制度上、確立されている休暇は他の職業と比べてこのようにとても多いのです。特に女性にあってはこの恩恵にあずかっている人が多いのではないでしょうか。
ただし、建前上取れると分かってはいても、年休の消化率が非常に低いのが教員の世界です。日本の年休消化率は全世界と比べて圧倒的に低いというのに、さらに学校関係者の取得率はさらにさらに低くなるのです。
先ほどの話に戻ってしまいますが、現場の雰囲気がどうしても、それを許さないのです。雰囲気をどうとらえ、読むかは個人差があります。取るも取らぬもあくまでも自由です。しかし、どうしても休まなくてはならない時があるはずです。その場合は、まわりへのダメージが最小限になるような配慮が求められて当然です。
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有給休暇を取る上での注意点
①基本的に有給取得は誰からも好まれない~と心得る
それでも取る必要に迫られるときはあります。突発的なケースは致し方ないとして、あらかじめ分かっている予定などの場合は、極力、時期を考えましょう。先ほどの学校にとってハレの日、セレモニー取得は心臓です。わたしなど、小心者ですので、次の日コワくて学校に来れません。
②予定が分かっていれば、なるべく早く届け出る(伺いを立てる)
先にも話しましたが、基本、理由は問われることはありませんが、管理職は職場を離れた時も教員を監督下に置きたいものです。せめてどこにいるか位は把握しておきたいものなのでしょう。そこをどこまで忖度するかは自由ですが、私はマナーとしてある程度は話しておくべきだと思います。
③まわりへの影響を考える
学校はご存知のように、毎日何かが起き、予想もしないことが次から次へと起こる、一日がたいへん目まぐるしい職場です。一日経ったら「浦島太郎」状態はよくあることです。つまり、同僚、管理職、その他のスタッフ含めてみんな、他をカバーする余裕なんてこれっぽっちもないのです。
だとしたら、どうすればいいのでしょう?そうなのです。まわりへのダメージを極力少なくする方法を考えておくのです。
★自分の授業の自習監督に入ってくれる教師のための自習課題のストックをたくさんつくっておく(これがないと、監督者自ら自習課題を用意するハメになります)
★日ごろから、クラス、授業担当クラスの子供らへ自分が不在の時はどう動けばいいかの指示の徹底(これは大事です。日ごろの指導が見られます)
★授業コマを買ってくれる同僚を探しておく(毎日の同僚との付き合いが大切になってきます。教師はみんないっぱいいっぱい~しかし、「考査直前なんだけど、試験範囲まで終わってないから、授業売ってくれない?」などと現場ではよく交わされる文句です。実際もちろん金銭のやり取りなどあるはずもありませんが、やりとりのことを売る、買うと言っていました。それほど授業のコマは貴重ということなのでしょう。)
休暇ではなくとも、出張で学校を空けることもあると思います。そのようなときも、常にまわりへのダメージを考えましょう。「出張は仕事で行くんだから仕方ない、まわりに迷惑かけたってそんなの関係ない~」という考えでは、当たり前のことですがダメなのです。出張も休暇もお互い様なのですから、なるべくまわりの負担を軽くすることを心がけましょう。
★ホームルーム、SHRは基本、副担任に頼むことになるので、日ごろから副担の先生との関係を良好なものとするよう努め、打ち合わせを密にしておく
★緊急時の連絡体制を密に敷いておく
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いろいろあるのですね。他の仕事でもその人の代わり~というのはなかなか難しいものですが、学校の場合、もっとたいへんかもしれません。授業は、よほどの緊急時(高校商業科などで検定直前で是が非でも授業をしなくてはならないケースなどなど・・・)以外は基本的に授業を本人の代わりに行うことはまずありません。休んだ授業のコマ分だけ止まってしまうので、どこかで必ず授業の穴埋めをしなければならなくなるのです。
どうでしょうか?教師が平常日に休むことの困難さを分かってもらえたでしょうか?取りづらい!しかし、休息は必要です。教師の代わりはありませんが、教師も一労働者であることに変わりはありません。かつての私のように滅茶苦茶活動していて、大会参加数も半端ない部の顧問になってしまうと休暇取得は絶望的ですが、ふつうみなさん、長期休暇時にまとめどりしているようです。
仕事ができる時間は限られています。それならば、集中力を高めて効率的に仕事を進めていくことを考えていくしかありません。休みの時間を確保するためにも、時間の使い方について考えるのも無駄なことではありません。長短の差こそあれ、私たちに残された時間は刻一刻と削り取られて行っているのですから・・・