~ 息子が喫煙で一発退学処分になりました。もう既に「決定事項」で覆すことはできないそうです。何度も何度も喫煙で指導を受けていたのであれば仕方ないとは思いますが息子ははじめてです。どうにかならないのでしょうか?~
男子生徒の母親からの緊急の切なる相談でした。小中学校、特別支援学校と異なり、高等学校では「懲戒」という最も重い処分のうちの一つである、「退学」を選択することもできるのです。場合によっては・・・私の教師時代にも、これまで退学処分により少なからず生徒が学校を去って行きましたが、果たしてどのような場合に学校は退学勧告、もしくは退学処分とすることができるのでしょうか?
そして、実際に「退学」になってしまう前に何かできることはないのでしょうか?
学校によってありすぎる
生徒指導裁量の幅
ほんとうのところ、公立学校では各学校での「内規」により相当幅がありますし、私立高等学校では複雑かつ、独特でさらに幅があり、より厳格な傾向にあると言えるでしょう。
理由は簡単です。私立学校の場合、生徒、学校の悪評はその学校のこれからの募集にモロ影響を及ぼすからなのです。私立学校は、年に何回も行われる学校見学会、体験学習、各中学校に出張しての募集説明会~と生徒募集に生き残りをかけて必死なのです。
生徒の在学中、出口(進路等)などで実績を上げ、特色をどんどん打ち出していかないと、お客様である生徒が来てくれないのです。生徒指導に時間をかけている暇など本当はないのです。
また、「内規」と一口に言っても、どこの学校でも杓子定規的に書いてある通りに処分が下される訳では決してありません。「退学」という非常に重い判断が下されるまでには、気の遠くなるような時間をかけての指導が普通はあるのです。
「これ以上できない!」という指導をし尽くし、それでも本人に改善の意思が見られない場合に限って、全体での職員会議にかけられ全体で議論をしつくし、その流れ・雰囲気を読み取り最終的に学校長が判断を下す~という流れになります。
ただこれは建て前というか、普通のスタンダードな流れであり、当然イレギュラーな場合もあります。それは職会の前に、「この生徒は絶対に退学させる!」と担任、生徒指導部、管理職との間で話し合いがついている場合です。
このような場合は職員会議でもまず、反対意見など出ないのが普通ですが、何でも物事には例外があるのが世の常です。例えば薬物に手を出していて、職員・生徒・家庭・地域への影響を考えると大っぴらには出来ないようなケースです。この場合、当然「薬物」のことは伏せられ、違った指導内容にすり替えられたり、職会にはかけられず極秘裏に「退学」の事実のみを職員に伝える~ということになります。
どうして、そんなことができるのか?と思われるかもしれませんが、あくまでも生徒の「出る入る」についての絶対的最終的決定権を持つのは学校長だからなのです。ですから、職会で全体に諮るという「カタチだけ」の営みもある意味、虚しいものなのかもしれません。
この絶対権限の発動は何も「出る」時だけではなく、「入る」時にも遠慮なしに行われます。それは「高校入試」の時です。入試時は職員総出で試験監督・採点・面接などに当たりますが、それらを総合して合否を判定する「入試判定会議」なるものがあります。
入試の合計得点も合否ラインをはるかに超えている。面接ランクも問題なし。中学校から上がってくる調査書問題なし。(担任が書く所見欄は、みないいことしか書かないので額面通りには誰も受け取ってはいませんが)
当然、判定会議でも教務主任が「合格でよろしいでしょうか?」(事前に分かっている場合とそうでない場合とがあります)、それに応えて全体で「異議なし!」
誰もがこれで「合格!」と思ったその瞬間、学校長が「この生徒は不合格といたします!」とすかさず権限発動。
「中学より通達がありました」
これで終わりです。
要は中学校の校長より、「この生徒は落としてくれ!」と、学校長に連絡があった生徒なのです。
ご存知かもしれませんが、定員割れが続いてクラス定員を維持できずクラス減が危ぶまれるような高等学校では、教委より「よほどのことが無い限り、全部入れろ!」と学校は毎年尻をたたかれています。それでも、この「学校間取引」があった場合だけはほぼ間違いなく、全員入り口が閉じられてしまうのです。
私はこのような教育困難校勤務がほとんどでしたが、中学校の校長にそこまで言わせる彼らは、中学校時代、好き勝手やってどうしても学校の指導に従わなかった~という生徒です。
学力が県で一番下の学校であってもでです。こういった学校だからこそ中学時代不登校、長欠、自閉傾向の生徒もみな受け入れています。しかし、生徒指導上、入学してから非常に困難が予想される生徒だけは高校は決して入れません。これが事実で現実です。
受け入れて後々、最後まで彼らと向き合っていくのは担任であり教科担任、その他の教職員なのです。その苦労を分かっているから学校長は「不合格」とするのです。この学校間取引はお互いのため~ということになってはいますが、中学校としても「えっ!アイツ本当に高校入れたの!」となっては後々の指導がやりにくいという事情からも当然来ています。
学校の指導にまったく従わず、好き放題やってても結局、どこかの高校には入れる~となると、生徒は学校をなめてかかるようになるのは目に見えています。「ああやっぱり、あそこまでやっちゃうとどこもとってくれないんだな」~と中学校では生徒に思わせたいのでしょう。
これはある意味、「みせしめ」と取られても仕方ない行為かもしれませんが、中高共に切実な事情が絡んでいるのです。何も知らず合格発表を見に来た生徒が寂しそうに帰っていた後ろ姿を私は忘れることがいまだにできません。仕事とはいえ、なんと罪つくりなことでしょう。
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退学処分を下すことができる場合
学校が懲戒として下す退学処分は実は「学校教育法施行規則」にきちんと書いてあるのです。
① 性行不良で改善の見込がないと認められる者
② 学力劣等で成業の見込がないと認められる者
③ 正当の理由がなくて出席常でない者
④ 学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者
~と書いてあるだけで、これをベースに学校それぞれに生徒指導にかかわる内規は決められ、時には見直されることもあります。だいたいは分かったような感じですが、何となくわかったようなわからないような、そんな感じかもしれませんね。
土台。「学生の本分」という表現が非常にあいまいでどのようにも取ることができるではないですか?おおむね共通する部分はあるでしょうが、学校、教師サイドが考える「生徒の本分」と家庭、生徒からみた本分というのはちょっと違ってきて当然でしょう。
退学処分を下すことができるケースを簡単に言ってしまいますと、
今まで指導に指導を重ねてきたが、もうこれ以上絶対無理!!
改善の余地も見込みもない!
これしか方法がない!
という場合のみ許される最終的選択、処分ということなのです。
待ってください!
学校としては「ハイ、さよなら!がんばってね!」で済むかもしれませんが、本人、生徒としては学生と言う身分が剥奪(はくだつ)されてしまうというとてつもなく重い処分なのです。
自主退学と懲戒退学(強制退学)とは処分としては全く性格の異なるものですが、いずれにしても生徒にしてみれば学校を去らなければらない、学生の身分を失うという点では同じことです。
本来、これらを履歴書等に記入する時には厳密にはきちんと分けて書くべきです。しかし、学校内での指導によって退学になったケースでは、懲戒退学であっても「一身上の都合により中途退学」~とするのが許されているようです。もっとも、逮捕等の犯罪歴をごまかせば虚偽の記載をしたということで罰せられることは言うまでもありません。
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なぜ、退学で問題が起きるのか、
そして納得できないのか?
先程の相談事例も詳しく話をきいてみますと、確かに喫煙での指導ははじめだったのですが、喫煙同席、生徒間暴力、対教師暴言と指導歴がかなりあったらしいのです。あくまでも元教師としての推測憶測になりますが、「次、何かやったときは一発アウト!」の誓約書を書かされていたのでしょう。当該校も苦渋の決断であったに違いない、と思いたいです。
~となぜこんなファジーな言い回しをするのか~とイライラするかもしれませんが、ここに学校裁量による「懲戒権の乱用」とまではいかないにしても、生徒指導には常に「あいまいさ」というものが付き物であるからなのです。
「学校、先生方は最後までほんとうに面倒をみてくれました。これ以上迷惑をかける訳にはいきません。御世話になりました。」~とお互いが納得して最後に握手して、さよならといつもいくかというとそうでもありません。
それはなぜでしょうか?
それは、「学校に置いておきたくはない、出ていって欲しい」という学校側と、「なんとか卒業だけはしたい」という生徒側とが歩み寄れず、最後まで分かり合えないからなのです。
お互いの言い分があるのは当然です。特に、家庭側の事情、言い分はもっともっと考慮されなければなりません。家庭と学校は対等であるといっても、それは建て前でしょう。懲戒権を握っているのは学校なのですから。
立場上、弱いものの権利は十二分に守られるべきです。処分が下されてしまう前に、以下の点についてすべて十分になされたかどうか、家庭は最後の最後まで確認すべきです。
人格形成上の発展途上である、こどもであることが十分に考慮されたか?
本当にいきつくされた指導、議論がなされたのか?
最後に御情け(おなさけ)、これ以上の教育的配慮はもう期待できないのか?
そして、教師も最期に上のことを、もう一度考えてみなくてはなりません。自分が担任であろうがなかろうが、同じ学校で預っている大切なこどもに変わりはありません。
特に親御さんは最後まで諦めきれません。当然ですね。可愛い子どもの一生問題なのですから。
もし、どうしても自宅謹慎、学校謹慎、停学などの処分ではなく、ほんとうの本当に「自主退学勧告」「懲戒退学」になってしまった場合は、残された最後の手段は法律の専門家に相談すること。これしかないのです。
法律家に相談して、先述の学校の「懲戒権の乱用」ということでその処分の撤回を求めるのです。これは、「懲戒権の乱用」にあたるか否かが争点になりますが、しかし、こうしてまで退学処分の撤回を勝ち得たとしても、とてつもない時間と労力とお金をかけた上にお互いに疲れ果て、果たしてこどもは笑顔で再び学校に戻れるでしょうか?
私は疑問です。まずは、その前にできることを探るべきです。
繰り返しになりますが、一旦職員会議(その前に生徒指導部会で練られる)で決定事項となってしまった場合には、決定事項は覆すことができないのです。議事録としてきちんと残されてもいます。決定は覆すことができないのであれば、その前に動くしかありません。
先述のように、生徒の進退にかかわる最終的な権限を持っているのは学校長のみです。担任を飛び越えての直談判は問題がこじれるだけですので、担任を巻き込んで直接、学校長に懇願するのが唯一家庭に残された道です。
また別の見方をすれば、いまの時代、その気にさえなれば実にさまざまな学習の機会が得られます。何も選択肢はひとつだけではないような気もするのですが・・・
親御さんからしてみれば、現在の学校にこだわりたい気持ちは痛いほど分かります。しかし、私自身担任を長らくやってきて、それ以外の道でもしっかりと自分の足で歩み続けている元生徒をたくさん見てきました。
私は公立高校退職後、私立女子校、通信制高校にも奉職しましたが、特に通信制高校(特に民間、株式会社立)は、不登校生徒だけではなく、問題行動過多生徒の受け皿になっている傾向が多分にあります。こういった所で学ぶのまた一つの道、高等専修学校、いったんは就職しながら通信制高校~など選択肢は実にたくさんあります。
こういった次の道の模索も教師であれば、きっと親身になって一緒に探してくれることでしょう。ですから、常日頃から担任、学校との連絡を密にして良好な関係を築いておくことはとても大切なことなのです。
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私の生徒の退学例
高校生の担任になってはじめにしなくてはいけないことは、クラスのルールづくりですが、同時にどういう場合に生徒は退学になるのか~をきちんと実際例を出して生徒に話す、これもまた大事なことなのです。
実際、私がこれまで受け持った生徒も「懲戒退学」処分と「自主退学勧告」処分を受けました。2人ともそれぞれ想い出深い生徒たちでした。
これらの厳しい処分が下される前には、次にこういうことをしたらこうなりますよ~と必ず前段階、予告はあるのです。一発退学処分など、相当大きな刑事事件とかにならない限り、まずあり得ないでしょう。
一人目のケースです。男子生徒「バイク運転、同乗」を何度指導しても私のこころが届かずして止めさせることができず、バイク乗りたいから自分からやめる~と生徒から来たのですが、学校は自主退学を認めず、学校の処分として「懲戒退学」を選択しました。
これには長い~長い~いきさつがあり、かんたんに済ませられる話ではないのですが、カンタンに言ってしまうと、留年2回目な上、家庭に寄り付かず親の協力、教育がまったく期待できないためだったのです。
先述の「学校が退学処分を下すことができるとき」の
① 性行不良で改善の見込がないと認められる者
② 学力劣等で成業の見込がないと認められる者
④ 学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者
に該当したということだったのです。
彼は「仕方ないな、ハクがこれでついた!」~などといきがっていましたが、仕方がないと思える半面、もっと他に何かしてやれなかったのか、方法が他にあったかもしれない~と諦めきれない部分もたくさんあったのでした。苦い想い出です・・・彼は、私が2回目の担任を持った時の生徒で、この時ほど自分のチカラのなさを嘆いたときはありませんでした。
バイク以外は本当に素直で明るく男女問わずみなから好かれていた生徒だったのですが、バイクに尋常ではない興味を寄せていたこどもだったのです。一時期、バイクの魅力をさぐろうと本気で免許取得まで考えましたが取得途上で頓挫、私の本気度はその程度だったのです。
いまの自分だったら、きっと違ったやり方で彼と向き合えたのではないかと思う時、教師を辞めてしまった今、なんともやりきれない気持ちになるのです。
二人目、女子生徒「不純異性交遊」妊娠が発覚し、「自主退学勧告」。
これは入学時からきちんとはなしていたので問題ありませんでした。昨今は生徒の学習権などと絡ませてやけに問題になってはいますが、当時は異議を唱えるような雰囲気はまったくありませんでした。卒業間際であったのが本当に辛かったです。そして、何とか学校にばれないように~とそのまま家庭ぐるみで乗り切ろうとしていたのが私としてはもっともっと切なかったのです。
普段から何でも打ち明けるような関係であったと思っていたのは私の独りよがりだったわけです。家庭、本人もそれだけ「卒業」にはこだわっていたのです。しかし、本人の希望と学校の配慮で卒業アルバムに本人を載せることができたのは嬉しかったですね。
見せしめ、指導放棄としての懲戒退学
これについての実例は残念ながら話せません。教員はその身分でなくなった時でさえ、守秘義務というものがあるからなのです。職務上知り得た秘密を守らなくてはいけない義務があるのです。
でも、実際ほかの生徒へのみせしめ、そしてその後の指導のやりやすさ求めるため、こうした「みせしめ退学」が行われていることは紛れもない事実です。
職員会議で最終判断が下される直前のこと。担任がもう指導不可能とした生徒について学校長が「退学処分といたします」と宣告する前に、私が挙手し、その生徒に対する自分の思いを話したことがあります。
担任であったわけでもなく、教科で教えていたわけでもありませんでしたが、私のクラスに頻繁に遊びに来ていた生徒ということも手伝い、なぜか悲しくなり職会で挙手発言してしまったのです。もう余地が残されてはいないのは頭では分かってはいましたが、誰もその生徒に対して議論をしないで「退学」させてしまうのでは、あまりにもその生徒が可哀そうに思えて仕方なかったからなのです。
一人くらい何かその生徒のことを話してあげてもいい~そんな思いに駆られのことでした。
職会が終わって学校長より「ありがとうございました。」と言われたときはどう受け取っていいのか分からず、しばらくその場に立ち尽くした記憶があります。
記憶といえば、私の教師時代「職員会議」で一番記憶に残っているものがありますので紹介しましょう。
おなじく「懲戒退学」が女性担任ただ一人の反対のみで、職員の総意として決定され、学校長が「退学」の処分を下した後も、この女性教員が涙を流しながら手を上げ続け「退学反対」「退学反対」と叫び続けていたのです。
職会が終わり、みながゾロゾロ三々五々帰っていく中、「まだ終わってません、帰らないで、帰らないで!!」と髪を振り乱し、なりふり構わずみなに懇願したのでした。
生徒に対する愛情があふれていた教師で、この生徒にも指導を尽くしていたのは傍目からみても分かっていました。私より年下の若い教師でしたが、このとき彼女に何か崇高なものを感じたのでした。
私は生徒のために、あんな涙を流せるか??
当時、自問自答し深く考え込んでしまった~そんな記憶があります。
繰り返しにはなりますが、なってしまってからでは遅いのです。子ども、家庭は担任を選ぶことができないのですから、運命づけられた担任との関係を日ごろから良好なものとしておけば(媚びる、へつらうという事ではありません)、このように問題が大きくなる前に、何らかの手を打つことができるはずなのです。
もちろん、小さな社会である家庭内での親子関係が大前提になっていることはいうまでもありません。
こどものためにできること、その答えは日々子どもと交わす何気ない会話の中にこそあるのではないでしょうか?
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そして結論
退学処分は最終の本当に最終の究極の選択としてあるべき
教師が一生背負い続けていかねばならない十字架
学校にあくまでもこだわり続けるのは、本人が希望した時だけ!
あくまでも本人の意思を尊重!
残された方法をすべてやってみるべき!
相手も人であるからして、相手の立場もまた思いやるべし! スポンサーリンク