みなさんが高校生だとして、教育学部、文学部どちら出身の教師に国語を教えてもらいたいでしょうか?どうでしょうか?教えてもらう先生の出た学部、大学なんて生徒からしたら普通はどっちだっていいことですよね。要はそういうことなのではないでしょうか。
大事なのは、教師本人の人間性、人間力、そして深みのあるおもしろくてためになる授業ができるかどうかなのではないでしょうか?このことを敷き詰めて考えていけば、答えは案外かんたんに見つかるかもしれません。
※ ちょっと突っ込んで言ってしまうとハイパー進学校などでは、当然受験指導に特化したスキル、経験が求められますので、受験戦争を潜り抜けてきた証である出身大学学部に加え、これまでの指導歴もまた重視されます。超有名進学塾、予備校などでの合格実績なども高く買われると聞きます。
今回は、高校の国語教師を目指している高校生からの相談事例です。正直、正解などありません。そもそも、それぞれが異なる目的、カリキュラムであり学問体系なのですから。キュウリとナスの優劣で議論をしても意味がないのと同じことでしょう。
ただ、その人その人にあった進学先~というのは確実にあるでしょう。今日は文学部と教育学部、どちらかを選べと迫られた時、どのような視点からアプローチしていって答えを出したほうがよいかを一緒に考えていきましょう。
教育学部は実践の学問?
教育学部では当たり前かもしれませんが、教員を目指している人がほとんど(ゼロ免コースも大学によりありますが)で、卒業要件の単位の中に教職課程が含まれていますので、教員免許状を取得しないと卒業すらできないことになります。(文学部では取らなくとも、もちろん卒業はできますよね)
そして、取得できる免許状の種類、数も複数可能な大学が多いはずです。特に国公立大学、教員養成学部がこの傾向が顕著です。国文であれば中高国語、英文だったら中高英語などと文学部であれば取得できる免許の数は一つに限られるところがほとんどでしょうが、教育学部では副免許まで取れてしまうのですね。
おまけに付属、系列の小中学校などがある大学では、それらの学校と連携して各種行事が組み込まれていたり、ボランティア活動なども盛んですね。このように教員になりたい!という意思がゆるぎない人にとってはまさにドンピシャの学部なのです。
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つまり、教育学部では将来教員になることを前提として、教育学という実践の側面が強い学問を体系的に学ぶのです。
一方、教員以外の一般就職という視点から見てみると、ハッキリ言って潰しはまるでききません。教員になることをあきらめた学生が一般企業就職に方向転換すると、必ず「なぜ?」「どうして?」の質問攻めにあうこと必至です。方向転換にはちょっと困難がつきまとうということです。
「教員になる!」というゆるぎない意志を持ち、専門教科国語の教授法など、実践の面からディープに学びたい!という人にはうってつけの学部です。そして何より教師を目指している先輩、仲間など意欲を持った人たちに囲まれた環境も手にするというのは大きいと思われます。
私は高校で長いこと教師をしておりましたのでちょっとは分かるのですが、高校生の全員がすべて卒業時までハッキリと進路を決められるというものではないのです。「何になりたいかなんて、わからない」「あれもこれもやりたいことあって、いまスグ決めろなんて残酷すぎる!」なんて子供たちもたくさんいました。
みなさんの中でも「教員」というイメージは一応あるんだけど、まっしぐら、ゾッコン~とまではいかないんだよな~という生徒だっていると思います。そのようなあなたは、保険をかける意味でも教職課程のある「文学部」がいいのかもしれません。
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文学部ってよく分からないんだけど・・・
文学=人文学という領域は、人間や文化ひいては社会についての理解を深めていく学問・・・これまで多くの先人がそうしてきたように、自己の人生観、世界観、死生観などを築き上げていくためには欠かせないもの・・・
こういった学問的領域は何も文学部だけに限定されずに、最高学府で学ぶものは学部、学問領域問わず学生であれば誰しも身に付ける人間的「教養」であると思うのです。それが現代では文学部にその役を担わされているのが現状と言えるでしょう。
先の「文学部不要論」ではありませんが、すぐに役に立つわけではないし、実践的でもない、要は「不要不急のものなんだから、そんなの自分でなんとかしてね~」ということでしょう。自分でなんとかできるものを、あえて大学には入って極めようとするのであれば余程、自身を突き動かす「何か」があっていいはずです。
そういった意味では、人文学的教養に対する、自分なりの位置づけ、「志」がなければ、安易な気持ちで文学部に進学するのはちょっと危険かもしれません。しかし、ものごと「白/黒」とキッチリカッチリ分けられることばかりでないところが人間、人生の面白いところ。何気ないきっかけで文学部に入ったけどその面白さに取り付かれ、気付いたら研究者になってた~なんてパタ~ンも当然あるでしょう。
要は我がの「内なる主人」の声に忠実に耳を傾ければいいだけのことなのかもしれません。
さて、文学部で教員免許状を取得・・・となるとちょっとだけたいへんかもしれません。文学部では、教職課程は卒業に必要な単位に組み込まれていない大学が多いために、卒業に必要な単位とは別に教職課程の単位を取得することになるからです。
当然、履修する単位数も、コマ数も増えることになり、時間割もビッシリ感にあふれ学生生活がさらに充実すること必至です。これはこれですばらしい、貴重なあなただけの経験となることでしょう。
それでは、現職教師の実態はどうなっているのでしょうか?こればかりは地域、自治体によってさまざまで何とも言えませんが、私のかつての勤務校5校では、そのほとんどが私立大学の文学部出身でした。(もちろん、教採の段階で出身大学、学部が合否に影響するなんてことはありません。(あとあと話します一部私立高校を除いては))
もちろん、この傾向はたまたまだったこともあるのでしょうが、これらは何を意味するのでしょうか?
ご存知かとは思いますが、専門教科、特に高等学校では専門性がかなり深いところまで要求されます。特に進学校などではその傾向が顕著です。最近では公立であっても、専修免許状(大学院修了者)取得者が教員採用試験で優遇されたり、私立進学校などでは、専修免許状所持が受験資格になっているところもあるくらいなのです。また、私立高校の求人では「古文、漢文指導ができる方」などの特定の求人も散見されます。高校国語教師であれば、これらの領域もできて当然~と思われがちですが、実際のところこれらを苦手としている先生方も実際にいるのです。これは何を意味するかと言うと、もうお分かりかとは思いますが、特に進学校などではそれなりの高度な専門知識と教授方法が求められるということなのです。
私は学部時、教員免許は取得しなかったので、卒業してから通信で「高校商業」の免許を取得したのですが、商業も簿記会計、情報処理、商業法規、経済科目、そして各種アプリケーションソフトの教授などなど、とにかく科目数が多岐にわたるうえ、それぞれに奥が深すぎるのです。現場ではすべてにおいてのスペシャリストみたいな教師も存在はしていましたが、ごくわずかでたいていは、それぞれ自分の専門に特化して授業コマを担当していましたね。
国語教師を目指すのであれば、中学であれ高校であれ、学部時代に自分の深み、強みを積み上げておいたほうがあとあと自分のためになることは間違いありません。
かと言って、教員養成系大学、教育学部を出た人が専門に弱い~ということには必ずしもなりません。大学で教科の専門を学べることが、文学部よりは少ない、浅い~ということだけなのです。ホリエさんの「文学部不要論」を持ち出す訳ではありませんが、文学の道は自分自身で極めていくことも可能だとは思いませんか?(そして何より、教員養成系大学では主専攻の免許以外にも異なった校種、教科の副免を取れるところがほとんであるという現状はすごいアドバンテージがあるのではないでしょうか?)
そもそも文学部のカバーする範囲はとてつもなく広く、人間に関すること(場合によっては、モノ、動物、事象までも)すべてと言えるでしょう。哲学、倫理学、心理学、社会学、歴史学、宗教学、人間関係学、言語学、地理学・・・など挙げていったらそれこそキリなどありません。
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文学部をひとことで言ってしまうなら、人間について書物を通してアプローチしていき、人間を深く知るための学問~と言えるのではないでしょうか?かなり大雑把な言い方ではありますが、人間の生き方、在り方について深く考え、「人間とは何か?」この永遠のテーマを追い続ける学問なのだと思います。
この相談者さんは、「国語教師!」と夢まっしぐらですからなんら問題はありませんが、学科、専門・専攻がとにかく細分化されているのも文学部の大きな特徴です。たとえば「明治大学文学部」を例にとってみますと、その専攻の多さにビックリです。同じ文学部内でこんなにも多くの専攻に分かれているのです。
①文学部文学科(日本文学専攻、英米文学専攻、ドイツ文学専攻、フランス文学専攻、演劇学専攻、文芸メディア専攻)
②文学部史学地理学科(日本史学専攻、アジア史学専攻、西洋史学専攻、考古学専攻、地理学専攻)
③文学部心理社会学科(臨床心理学専攻、現代社会学専攻、哲学専攻)
いかがでしょうか?これらの専攻、そのすべてが文学部に属しているのです。文学部の範囲って本当に広いのですね。私自身は明大ではありませんが、文学部英米文学科卒業です。専攻は「比較文化」でした。入学してから「文学」そのものよりも「日本文化」にその関心が移り、海外の文化を学んでいくことにより、日本を見直したくなってきたのです。
中高生のころから海外の文学に親しんでいたので、文学部を迷わず選択したのですが、入学後、留学生等の多くの国籍を異にする人たちと知り合うようになって、異文化になぜか惹かれるようになっていったのでした。
文学、歴史学、哲学などに親しむということは、著者の視点、ものごとの考え方に立脚しつつ、自己の思考を深め、カタチにしていくというとてもおもしろく奥が深いものだと私は思います。これらの営みを通じて、人間、人生の意義にたどりついたり、ひいては世界観宇宙観などを形成することにつながるのではないでしょうか?
このように、人間に対するディープな部分を極めていくことができるのも文学部ならではの魅力ですね。たしかに独学、独力でこれらの学問を究めていくこともできるのかもれませんが、リードしていってくれるメンター、そして志を一にする学徒、仲間がいるのは学生時代ならではの特権です。教科の専門性を思いっきり深め、自由に学べるのはこの大学時代だけのような気がするのです。その意味では、本当に大学、学部、学科選びはとても大事な事であり、大学生時代はほんとうに貴重な時間です。
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文学部、教育学部どっちもどっち・・・
いかがでしょうか?教育学部と文学部・・・そもそも学部が求めているものが違うのですから、比べること自体ナンセンスなのかもしれません。どちらも大切な学問です。
自分はどのような教師になりたいのか?
教師になって自分は何を実現したいのか?!
何を子どもたちに伝えていきたいのか?
この大きな命題3つを敷き詰めていけば、おのずから答えは見えてくるのではないでしょうか?
以上、かんたんにまとめてしまうと(まとめられる性格のものでもないのですが、そこは強引に)
★教員、一般就職迷っているけれど日本文学に興味アリ→文学部
★教師まっしぐら、文学、教育学部どちらも学びたい→教育学部
・・・ということになるでしょう。
※ 私の在職中にもデモシカ先生よろしく「腰かけ」で教職の地位に甘んじ「作家先生」を本気で目指している教諭、常勤講師、非常勤講師の方々がおりましたが、こういった人たちは考察の対象とはここではあえてしませんでした。なぜなら、非常勤講師の先生を除いてはいずれもフルタイム勤務であり、それでなくとも仕事が雪崩を打つように次から次へと押し寄せてくる教師の仕事と執筆の時間確保とは相容れない性格のものだからです。土台、自宅に持ち帰っても終わらない終えることが出来ない仕事量を前にして、原稿用紙,PCに向かおうという気力さえ普通はなくなるはず。それを両立させているように見せる~というワザを繰り出しているのであれば、教師の仕事を必ずどこかで疎かにしていることは確実でしょう。
従って、どうしても作家になりたいのであれば、自分の時間も確保でき、授業、授業中における生徒指導に特化できる「非常勤講師」の職をゼッタイに選択するべきです。
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最後にちょっとだけ付け足しになりますが、大事なことですので話しておきます。私立高校では特に進学校、伝統校では学閥が幅を利かせていることは否めない事実です。公立高校ではプライバシー保護の観点から住所、出身大学などすべて教職録には載りませんが、いまだに私立高校ではそのすべてが丸裸にさらされます。
地方であれば、地元国大、超有名私大、首都圏、都市圏であれば有名私大、有名難関国大の学歴がモノを言うこともあるのです。(もちろん、本人のトータル人間力、教師力がいちばん大切なのは言うまでもありませんが)
このようなことを考えてしまうと、高い学力があるのであれば、あえて地元の国大教員養成学部に入らず、首都圏有名私大文学部にチャレンジ!という選択肢も大いにアリだと思います。そして、大都市圏の有名私大などは全国各地からさまざまなありとあらゆる人種が集まってきて、学部、男女を超えた交わりがあるのもまた魅力でしょう。
いろいろな視点から、教育学部、文学部を見てきましたが、最後はやっぱりあなた次第です。
どちらへ進んだとしても、それぞれの学び、人との出会いが待っていることでしょう。ちょっとうらやましくなっていきました。みなさんの学生時代が実り多いものとなりますように。
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